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人生におけるTransitions(トランジション)とは


Humanistic Psychology の分野では推薦図書リストに入っている、William Bridges氏の「Transitions(トランジション)」という書籍があります。トランジションとは日本語に訳すると「移行」という意味ですが、心理学的な定義は、人生の局面(クライシス)。個人の人生に大きな影響を与える変化が起き、状況の変化とともに個人が変わっていくことを余儀無くされること。そのプロセスです。

人生で起きるChange(変化)はどちらかといえば状況的なものですが、トランジションは、変化に伴う心理的なプロセスと捉えることができます。

個人だけではなく、組織においても、たとえば経営者の交代によって組織変革などが起き、組織全体が大きく変化する状況とプロセスをトランジションと呼びます。キャリアコンサルテーションなどで使われる単語ですよね。

人生でトランジションが起きる例をいくつか書き出してみます。

  • 就職(学生から社会人へ)

  • 転職(Aという会社からBという会社へ)

  • 転勤・転校(Aという場所からBという場所へ)

  • 結婚(独身生活から結婚生活へ。新たなコミットメントの発生)

  • 出産(親になるという新たな立場・世界へ)

  • 離婚(結婚生活から離婚を経て、次のステージへ)

  • 子供の巣立ち(子供中心の生活から、子供中心ではない次のステージへ)

  • 定年(仕事が人生の大部分を占めていた生活から、リタイアメント生活へ)

  • 死別(パートナ・または大切な存在との死別、そしてその後)

トランジションは一般的に、下記のような感じでおきます。

AからBという場所へ移行するのは、簡単ではないこと場合はほとんどではないでしょうか。表面上はできるだけ平静を装っていても、水面下では小さなことから大きなことまで、グラグラと自分のコアな部分を揺らがすさまざまなことが起きています。Aという状況からBという状況に慣れてゆくまでには、それなりの時間とエネルギーを要するのです。同時に、変化の原因となったある出来事(X)によって受けた心のショックを癒し心の溝を埋めるには、Xという出来事に新たな意味と価値を見出してゆくための時間も必要です。トランジションとは、とてもとてもデリケートなプロセスなのです。

人が最も戸惑いストレスを感じやすいのは、このAからBへの移行中の時期です。William Bridges氏は、AからBへはすぐに移動できるわけではない。AとBとの間には、ニュートラルゾーンという別のステージが存在しているといい、そしてこの時期がトランジションの中で最も重要な時期だと説いています。

William Bridges氏のトランジションのステージモデル

ステージ1 Endings (終わり)

トランジションはまず、何かが終わることから始まります。存在していた状況や、自分の人生の中で当然なものとして存在していたことが終わり、自分が何かを失ったのだとしっかりと意識することで、このステージが始まります。そしてそれにともない、何を手放して、そして次のステージへ何を持ってゆきたいのかを真剣に考えることを余儀なくされます。

ステージ2 Neutral Zone (ニュートラルゾーン)

このステージでは、以前の状況と新しい状況の間にいて、以前の状況をもう過去のことなのだと認識してはいるのですが、それでも新しい状況に馴染みきれていない、完全に受け入れきれていない状況です。自分の新しい立場やアイデンティに馴染めていないので、いろんな場面において自分の立ち位置がはっきりしないことによる戸惑いやフラストレーションが多く発生する時期です。

William Bridges氏はこの時期がトランジションにおけるコアなステージであり、この時期をどう過ごすかによって、新しい自分の人生をどのように生きるかに影響してくると言っています。誰にとっても重く辛い時期ですが、自分と向き合うことから逃げず、自分自身と対話する時間を持つこと、そして一人の時間を大切にすることが重要です。

表面上では状況や物事は淡々と進んでいくのに、自分の心と体がそれについていけないので、心身ともに疲れが溜まりやすい時期です。早送りできたらいいのに、と思わずにいられない時期ですが、このステージに必要な時間は人によってケースバイケース。進んだと思っていたら、次の瞬間には過去に引きづられていたり・・・ という具合に、一見すると生産性の低い時期なのですが、同時に意識が内側へと向かっていくのでクリエイティブな活動にエネルギーを注ぐことができる時期です。人生の価値観や生き方、考え方を大きく変えることができる、自分を成長させていくためのインナーワークをするのには、人生の中で最も影響力がある時期でもあります。

ステージ3 New Beginnings (はじまり)

新しい人生の状況・立場を理解して受け入れ、新たな価値観と態度によって人生を歩み始める時期。自分の新しいアイデンティに馴染み始め、それに伴って新しい目標に向かって進んでいくことができます。とくに、ステージ1とステージ2をきちんと経験してプロセスすることができた人は、フレッシュな気持ちで新しい状況を全うすることができるようになってゆきます。成長していく自分に見合った目標やライフスタイルの確立へと向かっていく行動力が出てくる、エネルギッシュな時期です。

人の心は繊細で複雑な機能を持っています。ニュートラルゾーンを通過せずにAからBへのトランジションをすることはできません。自分がニュートラルゾーンにいると感じたら、まずはそのデリケートな時期にある自分に対して、できる限り優しく接してあげることです。そして、ときには眠れない夜を過ごしたり、人生に空虚感を感じることがあっても、この時期の自分にはそれらの感情を体験することが当然のことだと理解することです。なぜならこれはトランジションを経験する人にとって、必ずと言っていいほど起きることだから。

そして、自分と向き合うことから逃げるのをやめること。自分の意識が内側へと向かっていくことを許可して、「自分自身との深い対話」や、「これまでの人生を振り返って見つめ直すこと」に時間を費やすことは、この時期だからこそできることだと理解しましょう。自分自身と丁寧に付き合うチャンスだと受け止めてみることがオススメです。

参考図書

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